「朝の光を浴びるとセロトニンが出て、気分が上向く」——よく聞く話ですが、「何分浴びればよいか」は一律には決まりません。結論から申し上げます。必要な時間は、①あなたの起床時刻(時計の時刻ではありません)、②目に実際に届いている光の量、③窓ガラス・サングラス・年齢といった減衰要因、の3つで変わります。
そして、効果の説明軸も見直す必要があります。「セロトニンが増えるから元気になる」という説明は、実は近年ゆらいでいます。より堅い説明は「朝の強い光が体内時計を同調させる」というものです。この記事では、日本の実測データと国際的な指針をもとに、あなたの条件に合わせた「朝の光の処方箋」を組み立てます。
まず今日やることは1つだけです。起床後1時間以内に、屋外の光を5〜15分浴びる。屋外に出られない日は、カーテンを全開にした窓から1m以内で30分過ごしてください。理由と例外は以下で詳しく説明します。
朝の光とセロトニンの効果とは?まず何をすべきか
結論は「起床後1時間以内に屋外の光を5〜15分浴びること」です。時計の朝7時ではなく、あなたが起きた時刻を基準に考えます。屋外に出られない場合は窓際1m以内で30分が代替案です。
なぜ「起床後」であって「朝7時」ではないのか
体内時計は時計の時刻ではなく、あなた自身のリズムに対する相対的なタイミングで動きます。
上位に並ぶ多くの記事は「朝7時〜9時に浴びましょう」と時計時刻で語りますが、これは平日6時起きの人にも、休日10時起きの人にも、夜勤明けの人にも同じ処方を出していることになります。体内時計をリセットする光の効き方(位相反応)は、その人の睡眠・覚醒サイクルのどの位置で光を浴びたかで向きが変わるとされています。深部体温が最も下がる時刻(おおむね起床の1〜2時間前)より後に浴びれば時計は前へ、前に浴びれば後ろへずれる、という関係です。
つまり、朝5時起きの人の「朝7時」と、朝10時起きの人の「朝7時」は、体内時計にとってまったく別のタイミングです。ですから本記事では一貫して「起床後◯分」で表記します。
最初の1週間でやること(手順)
- 起床時刻を固定する(平日・休日の差を1時間以内に近づけます)
- 起きたらまずカーテンを全開にする(厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、乳幼児期について起床時刻を決めてカーテンを開けることが推奨されています)
- 起床後1時間以内に屋外の光を浴びる(通勤の徒歩、ベランダ、ゴミ出しでも構いません)
- 同時に朝食を摂る(咀嚼というリズム運動が加わります)
- 夜は照明を落とす(朝だけ整えても、夜が明るいと打ち消されます)
太陽を直接見つめないでください。光は「目に入る」ことが重要ですが、直視は網膜を傷めます。視線は前方や地面側に置き、視野に空が入る状態で十分です。
セロトニンと朝の光の関係|なぜ効くのかを正しく整理する

朝の光の効果は、「セロトニンが増えるから」よりも「体内時計が同調するから」と説明するほうが証拠が固いとされています。セロトニン仮説そのものが2022年に大きく見直されたためです。
光とセロトニンには実測データがある
Lambert GWらがLancet 2002年に報告した研究では、健康男性101名の内頸静脈血から脳のセロトニン産生速度を測定し、その日の明るい日照の持続時間と正の相関(r=0.294, p=0.010)が確認されました。産生速度は冬季に最も低く(p=0.013)なっています。
光とセロルトニン産生に関連があること自体は、このように人体で実測されています。ただし相関係数0.294は「関連はあるが、日照だけで決まるわけではない」水準です。ここを「日光を浴びればセロトニンが増えて幸せになる」と飛躍させないことが大切です。
「セロトニン低下=うつ病」は成立しないと整理された
Moncrieff Jらによるアンブレラレビュー(Molecular Psychiatry, 2022)では、うつ病がセロトニン濃度や活性の低下によって引き起こされるという一貫した証拠は見出されなかったと報告されています。体液中のセロトニン濃度、受容体結合、トランスポーター、トリプトファン枯渇試験、遺伝子関連研究を横断した検証の結果です。
この整理は臨床現場で議論が続いており、「抗うつ薬が効かない」という意味ではありません。ただ、記事として読者に約束できることの範囲は変わります。「朝の光でセロトニンを増やせば気分の落ち込みが治る」という説明は、現時点で根拠が十分とは言えません。
では何が言えるのか——体内時計とメンタルヘルス
Burns ACらがNature Mental Health(2023年10月)に発表した研究では、UK Biobank参加者86,772名の実測光データ(質問紙ではなく手首装着型の光センサー)を解析し、日中の光曝露が多い群はうつ病リスクが約20%低く、夜間の光曝露が多い群は約30%高いという関連が示されました。
観察研究であるため因果関係を断定することはできませんが、「昼は明るく、夜は暗く」という生活パターンが、非薬物的なメンタルヘルス対策になりうることを大規模な客観データで裏づけたものとされています。
光→セロトニンの関連は実測されています。しかし「セロトニンが低いからうつ」という単純な図式は否定的に整理されました。朝の光の価値は体内時計の同調と、それを介した睡眠・気分の安定にあると理解するのが、現時点で最も堅い説明です。
朝日はセロトニンに何分必要?|「時間」より「目に届く量」
必要な時間を決めるのは、目の位置に届く光の量です。国際的な指針は「目の高さ・鉛直面でmelanopic EDI 250ルクス以上」を日中の推奨としており、屋外なら数分〜十数分、窓際なら30分程度が目安になります。
melanopic EDI 250ルクスという新しいものさし
Brown TMらがPLOS Biology(2022年)に発表した国際コンセンサス勧告では、健康な成人の日中の屋内光環境として、目の位置(高さ約1.2m・鉛直面)でmelanopic EDI 250ルクス以上が推奨されています。あわせて、夕方は10ルクス未満、就寝中の寝室は1ルクス未満とされています。
ここが多くの記事と決定的に違う点です。従来よく引用される「2,000〜3,000ルクス以上」は、一般的な照度計が測る水平面照度(lx)であることが多く、しかも「光源側がどれだけ明るいか」の話になりがちです。melanopic EDIは、体内時計を担う網膜の受容体(内因性光感受性網膜神経節細胞)への効きやすさで重みづけした指標で、しかも測る面が「あなたの目が向いている方向」です。
実務上の意味はシンプルです。
- 天井照明が明るくても、下向きに手元を照らすだけなら目にはあまり届きません
- 窓に背を向けて座るのと、窓の方を向いて座るのでは、同じ席でも届く量が変わります
- 「部屋が明るい」という感覚は当てになりません(人間の視覚は明るさに対して対数的に反応するため、屋外と室内の数十倍の差を数倍程度にしか感じません)
日光浴とセロトニン|時間の目安をどう決めるか
一般に紹介される目安は「15〜30分」です。ただし、この数字は「屋外・晴天・遮蔽なし」を暗黙の前提にしていることが多く、条件が変われば必要時間も変わります。
次の考え方をおすすめします。
- 屋外の直射・晴天なら、光量は桁違いに大きいため短時間で足ります(5〜15分)
- 曇天・日陰の屋外でも、室内よりはるかに明るいため実用的です(15〜30分)
- ガラス越しの窓際は減衰するため長めに(30分前後)
- 部屋の奥・一般照明のみは、時間で補うのが難しい領域です(別手段を検討)
「何分」に唯一の正解がない以上、測れないなら条件で決めるのが現実的です。次章の比較表と診断チャートで、ご自身の条件に当てはめてください。
窓越しの日光でセロトニンは足りる?|生活動線別の比較
結論は「体内時計・セロトニンには窓越しでも意味がありますが、ビタミンDは作れません」です。一般的な窓ガラスは可視光を通し、UV-Bをほぼ遮断するため、2つの効果は経路が別だからです。
生活動線別・目に届く光と得られるもの
| 場所・状況 | おおよその光の強さ | 体内時計リセット・覚醒 | ビタミンD生成(UV-B) | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| ①屋外・直射(晴天) | 数万ルクス規模(屋外は室内比で桁違い) | ◎ 最短時間で足りる | ○ 可能(季節・地域差大) | 太陽の直視禁止/日焼け対策と両立が必要 |
| ②屋外・日陰/曇天 | 直射より大幅に低いが室内より明らか強い | ○ 十分実用的 | △ 大きく低下 | 「曇りだから無意味」ではありません |
| ③窓を開けた窓際1m以内 | 屋外に準じる | ○ 有効 | ○ 開口部からの直射があれば可能 | 花粉・寒暖・防犯に配慮 |
| ④ガラス越しの窓際1m以内 | 屋外より大きく減衰 | ○ 有効(時間を長めに) | ✕ ほぼ不可(UV-Bを遮断) | 遮光・UVカットガラスはさらに減衰 |
| ⑤部屋の奥(一般照明のみ) | 一般的な室内照明は数百ルクス程度 | △ 250 melanopic EDI到達は困難なことが多い | ✕ 不可 | 「明るく感じる」でも不足しがち |
| ⑥電車内 | 車内照明中心・窓向き着席なら変動 | △ 期待しにくい | ✕ 不可 | 窓側で外を向くと多少改善 |
| ⑦車の運転席 | フロント/サイドガラス越し | △〜○(晴天日中なら一定量) | ✕ 不可 | 運転中の眩しさ対策が優先 |
| ⑧高照度光療法器(10,000lx機) | 機器仕様として10,000ルクス | ◎ 設計上は確実 | ✕ 不可(UVカット仕様が一般的) | 医療機器ではない製品もある/後述の注意参照 |
※光の強さは製品・天候・時刻・方角で大きく変動するため、いずれも「およそ」の相対比較としてご覧ください。屋内の推奨基準はPLOS Biology 2022(目の位置・鉛直面でmelanopic EDI 250ルクス以上)、ビタミンDとUV-Bの関係は環境省「紫外線環境保健マニュアル2020」に基づきます。
「窓越しは無意味」という誤解の正体
「ガラス越しの日光浴は意味がない」という説明を見かけますが、これはビタミンDの話と体内時計の話が混ざっているために生じています。
- ビタミンD合成:UV-B(紫外線B波)が必要。一般的な窓ガラスはUV-Bをほぼ通しません → 窓越しでは作れません
- 体内時計の同調・覚醒:可視光(特に短波長寄りの光)が働きます。ガラスは可視光を通します → 窓越しでも成立します
ですから、「デスクを窓際に移す」「朝食を窓際で摂る」といった工夫は、ビタミンDには効きませんが、体内時計には意味があります。
ただしUVカットガラス、Low-E複層ガラス、遮光カーテン、ミラーフィルムなどは可視光の透過率も下げます。「窓際にいるのに眠気が抜けない」場合は、窓そのものが減衰要因になっている可能性があります。
あなたの朝の光、足りてる?|5問の診断チャート
以下の5問に順に答えてください。終端A〜Dのうち1つに到達します。判定の根拠はPLOS Biology 2022のmelanopic EDI 250ルクス基準と、厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」の記述です。
診断チャート
Q1. 平日と休日で、起床時刻が2時間以上ズレますか?
- はい → まず「ソーシャルジェットラグRoute」へ(下記参照)。光の時間を増やす前に、休日の起床を平日+1時間以内に寄せることが先決です。その上でQ2へ進んでください。
- いいえ → Q2へ
Q2. 起床後1時間以内に、屋外の光を浴びますか?(通勤の徒歩、ベランダ、ゴミ出し、洗濯物干しを含みます)
- はい(5分以上) → Q5へ
- いいえ → Q3へ
Q3. 屋外に出ない日、窓から1m以内で過ごし、カーテンを全開にしていますか?
- はい → Q4へ
- いいえ → 終端C
Q4. 次の遮蔽要因に当てはまりますか?(サングラス常用/遮光・UVカットの窓・カーテン/車通勤で降車が短時間/電車で窓から離れて着席/屋内でも常に窓に背を向けている)
- 1つ以上当てはまる → 終端D
- 当てはまらない → Q5へ
Q5. 60歳以上ですか?
- はい → 終端B(加齢による水晶体の黄変で、短波長の光の透過率が下がるとされています。同じ環境でも若年者より届く光量が少なくなる可能性があります)
- いいえ → 終端A
終端別の処方
| 終端 | 現在の状態 | 具体的な処方 |
|---|---|---|
| A | 条件を満たしている | 現状維持でOK。夜の光(就寝前のスマホ・強い照明)の管理に軸足を移してください。 |
| B | 屋外に出ているが、加齢要因あり | 屋外5〜15分を追加(合計で長め・回数を分けても可)。窓際の作業席を確保し、日中の在室環境も明るく保ちます。 |
| C | 屋内中心・窓から遠い | 窓際30分+朝食で咀嚼を併用。可能な日は起床後1時間以内に5分でも外へ。デスクの向きを窓側へ変えるだけでも改善します。 |
| D | 遮蔽要因が複数ある | 遮蔽の解除を優先(カーテン全開・サングラスを朝は外す・窓側着席)。改善が難しければ高照度光デバイスの検討。気分の落ち込みが2週間以上続く場合は、自己対処を続けず医療機関にご相談ください。 |
ソーシャルジェットラグRoute(Q1で「はい」だった方)
休日の朝寝坊は、体内時計にとって毎週の時差移動に相当するとされています。この状態では、平日にどれだけ朝の光を浴びても効果が打ち消されやすくなります。
- 休日の起床を、平日+1時間以内に収める(一気に揃えず、週ごとに30分ずつ前倒しします)
- 睡眠不足の解消は、朝寝坊ではなく早めの就床か午後の短い仮眠で行う
- 起床後1時間以内の光を、平日・休日ともに実施する
光の量を増やすより先に、起床時刻のバラつきを減らすほうが効果が大きい場合があります。順番を間違えないでください。
ビタミンDと混同していませんか|街・季節別の日光浴タイマー
結論は「ビタミンDは食事とサプリで、朝の光は体内時計のために」と役割を分けることです。12月の札幌では、5.5μgのビタミンD生成に正午でも76.4分の日照が必要という実測値があるためです。
国立環境研究所の実測値(基準表)
国立環境研究所 地球環境研究センターの発表(2013年8月30日、Journal of Nutritional Science and Vitaminology掲載)によると、顔と両手を晴天日の太陽光に露出した条件で、5.5μgのビタミンD生成に必要な日照時間は次のとおりです。
| 地点 | 12月・正午 | 7月・正午 |
|---|---|---|
| 札幌 | 76.4分 | 4.6分 |
| つくば | 22.4分 | 3.5分 |
| 那覇 | 7.5分 | 2.9分 |
同じ日本国内でも、冬の札幌と夏の那覇では約26倍の開きがあります。「1日15分の日光浴でビタミンDは足りる」という一律の説明が成り立たないことが、この1枚で分かります。
使い方(手順)
- お住まいを3つの型に割り当てます — 北日本は札幌型、本州・四国・九州はつくば型、南西諸島は那覇型を目安にします
- 月を選び、上表から基準分数を読みます(12月と7月の間の月は、その中間程度と考えます)
- 正午以外の時刻は、必要時間が延びます — 太陽高度が下がるぶんUV-Bは弱まります。朝9時台は正午の目安より大幅に長くなります(具体的な倍率は条件依存のため、断定を避けます)
- 当日の実値を確認したい場合 — 国立環境研究所は国内5地点(落石岬・陸別・つくば・辺戸岬・波照間)で、10μgのビタミンD生成に必要な日光曝露時間を準リアルタイムで公開しています(「ビタミンD生成・紅斑紫外線量情報」)
- 日焼け止めを使う場合は、この方法では稼げません — 環境省「紫外線環境保健マニュアル2020」によると、ビタミンDを作る紫外線の波長は日焼けを起こす波長とほぼ同じで、SPF30の日焼け止めを使用すると皮下でのビタミンD産生は5%以下に低下するとされています
結論:役割を分ける
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」(2025年4月施行)では、18歳以上男女のビタミンD目安量が8.5μg/日から9.0μg/日に引き上げられました。策定にあたっては紫外線による皮膚での産生も考慮されています。
一方で、東京慈恵会医科大学の発表(2023年6月5日、The Journal of Nutrition 153(4):1253)によると、都内で健診を受けた5,518人のうち98%が血中25(OH)D 30ng/mL未満のビタミンD不足に該当しました(男性7〜30ng/mL、女性5〜27ng/mL)。
98%という数字は、「日光浴だけでビタミンDを充足させる」戦略が日本の生活実態では機能しにくいことを示唆しています。ビタミンDは魚類・きのこ類などの食事、必要に応じてサプリメントで確保し、朝の光は体内時計のために使う——この切り分けが現実的です。サプリメントは過剰摂取のリスクもあるため、開始前に医師・薬剤師にご相談ください。
ケース別の対処|夜型・在宅勤務・高齢者・冬季
条件が違えば処方も変わります。自分に近いケースを1つ選んで実行してください。すべてを同時に行う必要はありません。
高齢者の朝の光と睡眠——量を増やす必要があるかもしれません
60歳以上では、若年者と同じ環境でも届く光量が少ない可能性があります。加齢に伴う水晶体の黄変によって、体内時計への影響が大きい短波長(青色寄り)の光の透過率が低下するためです。
実践としては、次の3点をおすすめします。
- 屋外時間を長め・複数回に分ける(朝の散歩+日中の外出)
- 日中の在室環境そのものを明るくする(窓際に定位置を作る、カーテンを開け放つ)
- 夕方以降は逆に暗くする(早朝覚醒がある場合は、朝の光を強めるとかえって早まることがあるため、担当医にご相談ください)
白内障手術で眼内レンズを入れた後は、目に届く光環境が大きく変わることがあります。術後に睡眠リズムや眩しさの感じ方が変化した場合は、自己判断で光の量を調整せず、眼科の主治医にご相談ください。
夜型・シフト勤務の方
夜型の方が朝の光で無理に前倒ししようとすると、睡眠不足だけが積み上がることがあります。まず起床時刻を30分ずつ前倒しし、その新しい起床時刻の直後に光を浴びる、という順序で進めます。
シフト勤務(夜勤あり)の場合は、一般的な「朝の光」の推奨がそのまま当てはまりません。勤務パターンに合わせた光の当て方は個別性が高いため、産業医や睡眠を扱う医療機関にご相談ください。
在宅勤務で外に出ない方
最も改善余地が大きいケースです。優先順位は次のとおりです。
- デスクの位置を窓から1m以内に移す(可能なら窓の方を向く)
- 始業前に5分だけベランダ・玄関先に出る
- 昼休みに屋外で食事、または短い散歩
- それでも難しければ高照度光デバイスを検討
冬季・日照が少ない地域の方
Lancet 2002年の研究では、脳のセロトニン産生速度は冬季に最も低い(p=0.013)と報告されています。冬に気分が沈みやすいと感じる方は、屋外時間の確保をより意識的に行う価値があります。
ただし、季節性の気分の落ち込みが強く、日常生活に支障が出ている場合は、生活習慣の工夫だけで対処せず、精神科・心療内科にご相談ください。
ケースごとに「増やすべきもの」が違います。夜型は起床時刻の安定、在宅勤務は窓との距離、高齢者は総量と時間帯、冬季は屋外に出る頻度が要点です。
専門家・公的情報の見解|どこまでが確かなのか
公的機関が明確に推奨しているのは「起床後に朝日を浴びて体内時計をリセットする」という点です。一方、セロトニンを介した気分改善については、断定的な表現を避けるのが現時点で妥当です。
厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
起床後に朝日の強い光を浴びることで体内時計がリセットされ、睡眠・覚醒リズムが整うとされています。乳幼児期は起床時刻を決めてカーテンを開けること、学齢期以降は登校時や学校で十分に日光を浴びることが推奨されています。(厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」令和6年2月公表・令和6年9月一部修正)
このガイドは約10年ぶりの全面改訂で、2024年2月に公表され、2024年9月18日に一部修正版へ差し替えられています。参照する際は最新版のPDFをご確認ください。
国際コンセンサス(PLOS Biology 2022)
Brown TMらの勧告は、健康な成人を対象とした屋内光環境の推奨値です。日中はmelanopic EDI 250ルクス以上、夕方は10ルクス未満、就寝中の寝室は1ルクス未満とされています。「昼を明るく」と「夜を暗く」はセットで初めて機能します。
高照度光療法について
高照度光療法は、季節性の気分の落ち込みなどに対して医療機関で実施されることがあります。ただし、2025年時点でも公的医療保険の適用外(自費)であるとの案内が精神科・心療内科で一般的で、実施している医療機関は限られます。費用や適応の可否は施設ごとに異なるため、受診前に直接ご確認ください。
市販の高照度ライトには医療機器ではない製品も多く含まれます。双極性障害の方では光療法が症状を不安定にする可能性が指摘されており、また特定の眼疾患や光感受性を高める薬剤を服用中の方も注意が必要です。持病・服薬がある方は、購入前に主治医にご相談ください。
やってはいけないNG対応
善意の工夫が逆効果になることがあります。特に「夜の明るさ」を放置したまま朝だけ頑張るのは、最も多い失敗です。
- 太陽を直接見つめる — 網膜を傷めます。効果を高める行為ではありません。視野に空が入れば十分です。
- 夜を明るいままにする — Nature Mental Health 2023の解析では、夜間の光曝露が多い群でうつ病リスクが約30%高いという関連が示されました。朝の努力を相殺しかねません。
- サングラスをかけたまま朝の散歩をする — 体内時計への光は目から入ります。眩しさ対策が必要な場面を除き、朝は外すことを検討してください。
- 日焼け対策を一切やめてビタミンDを狙う — 紫外線は皮膚がん・光老化のリスク要因でもあります。長時間の意図的な日焼けは推奨されません。ビタミンDは食事とサプリで確保するほうが安全です。
- 不調が続いているのに生活習慣だけで粘る — 気分の落ち込み、興味の喪失、不眠が2週間以上続く、日常生活に支障が出ている場合は、光の工夫を続けるより受診が優先です。
- 睡眠薬・向精神薬を自己判断で減らす/やめる — 「朝の光でセロトニンが出るから薬は要らない」という考えは危険です。必ず処方医にご相談ください。
- 「セロトニンを増やせば必ず改善する」と考える — 前述のとおり、セロトニン低下とうつ病の単純な因果は否定的に整理されています。過度な期待は、受診の遅れにつながります。
この記事は一般的な健康情報であり、診断・治療の代わりにはなりません。症状がある場合や持病・服薬がある場合は、必ず医療機関にご相談ください。
まとめ|明日の朝からの3ステップ
- 起床時刻を決めて、起きたらカーテンを全開にする
- 起床後1時間以内に、屋外の光を5〜15分(出られない日は窓際1m以内で30分)
- 夜は照明を落とす(朝と夜はセットです)
そのうえで、診断チャートで終端Dに到達した方、あるいは60歳以上で睡眠リズムが乱れている方は、条件に応じた上乗せを検討してください。ビタミンDは日光浴ではなく食事・サプリで、という役割分担も忘れないでください。
朝の光の価値は「体内時計の同調」にあります。必要な時間は、起床時刻・目に届く光量・遮蔽要因の3変数で決まります。一律の「◯分」に当てはめず、ご自身の条件で組み立ててください。そして、気分や睡眠の不調が続く場合は、生活習慣の工夫より受診を優先してください。
よくある質問
Q1. 朝日はセロトニンのために何分浴びればよいですか?
屋外の晴天なら5〜15分、曇天や日陰なら15〜30分、ガラス越しの窓際なら30分前後が目安です。ただし唯一の正解はありません。国際コンセンサス(PLOS Biology 2022)は時間ではなく「目の位置でmelanopic EDI 250ルクス以上」という光量基準を採用しています。屋外に出るほど短時間で済み、室内奥へ行くほど時間では補いにくくなるとお考えください。
Q2. 窓越しの日光でもセロトニンや体内時計に効果はありますか?
体内時計や覚醒には効果が期待できますが、ビタミンDは作れません。一般的な窓ガラスは可視光を通す一方で、ビタミンD合成に必要なUV-Bをほぼ遮断するためです(環境省「紫外線環境保健マニュアル2020」)。ただしUVカットガラスや遮光カーテンは可視光の透過率も下げるため、窓際にいても不足する場合があります。
Q3. 曇りや雨の日は意味がないのでしょうか?
意味はあります。曇天でも屋外の明るさは一般的な室内照明を大きく上回るためです。ただし直射日光より弱いため、晴天時より長めの時間を確保してください。なお、ビタミンD生成については曇天で大きく低下します。
Q4. 高齢者は朝の光と睡眠の関係で気をつけることはありますか?
若年者より多めの光量が必要になる可能性があります。加齢による水晶体の黄変で、短波長の光の透過率が低下するためです。日中の屋外時間を複数回に分けて確保し、夕方以降は暗くすることをおすすめします。ただし早朝覚醒がある方は、朝の光を強めるとかえって起床が早まる場合があるため、担当医にご相談ください。白内障手術後に眩しさや睡眠の変化を感じた場合も、眼科の主治医にご確認ください。
Q5. 高照度光療法の機器を買えば、外に出なくても大丈夫ですか?
代替になりうる場面はありますが、まずは屋外の光と生活リズムの調整を優先してください。高照度光療法は2025年時点でも公的医療保険の適用外(自費)との案内が一般的で、実施医療機関も限られます。市販機器には医療機器でない製品も含まれ、双極性障害の方や眼疾患・光感受性を高める薬剤を服用中の方には注意が必要とされています。持病や服薬がある方は、購入前に主治医にご相談ください。
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最終確認日:2026年8月7日
本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、特定の疾患の診断・治療・予防を保証するものではありません。記載した研究結果や公的資料は執筆時点のものです。気分の落ち込み、不眠、日中の強い眠気などが続く場合は、自己判断で対処を続けず、医療機関にご相談ください。
参考文献・出典
- Lambert GW, Reid C, Kaye DM, Jennings GL, Esler MD. Effect of sunlight and season on serotonin turnover in the brain. Lancet 2002;360(9348):1840-2
- Burns AC ほか. Day and night light exposure are associated with psychiatric disorders: an objective light study in >85,000 people. Nature Mental Health 2023
- Brown TM ほか. Recommendations for daytime, evening, and nighttime indoor light exposure... PLOS Biology 2022
- Moncrieff J ほか. The serotonin theory of depression: a systematic umbrella review of the evidence. Molecular Psychiatry 2022
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(令和6年2月公表・令和6年9月一部修正)
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(2024年10月)
- 国立環境研究所 地球環境研究センター「体内で必要とするビタミンD生成に要する日照時間の推定」(2013年8月30日)/「ビタミンD生成・紅斑紫外線量情報」
- 東京慈恵会医科大学 プレスリリース(2023年6月5日)/The Journal of Nutrition 153(4):1253
- 環境省「紫外線環境保健マニュアル2020」(2020年3月改訂版)




