腹式呼吸 正しいやり方|公的3機関で秒数が違う理由と選び方
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腹式呼吸 正しいやり方|公的3機関で秒数が違う理由と選び方

腹式呼吸の正しいやり方を一言で言えば、「吸う時間より吐く時間を長くし、胸ではなくお腹だけが動く呼吸を、ゆっくり繰り返す」ことです。ただし、秒数・回数・強度の「正解」は目的によって変わります。

実は、公的機関の指示すら一致していません。厚生労働省は「吐く3秒・吸う3秒を5〜10分」、日本医師会は「吸う時間の倍かけて吐く・1日5〜20回」、独立行政法人環境再生保全機構(ERCA)に至っては「深呼吸ではありません。深く吸わないでください」と、深く吸う指導を明確に否定しています。

この記事では、手順を1つ押し付けません。公的資料の実数値をそのまま並べて食い違いを可視化し、あなたの目的(緊張をほぐす/息切れのリハビリ/発声)と体の条件から、従うべき1つのプロトコルを選べるようにします。さらに、上位の解説にはほとんど書かれていない「腹式呼吸ができない人・向かない人がいる」という分岐と、中止すべきサインまで扱います。

ポイント

「正しいやり方が1つある」と思って検索した方ほど、この記事で得られるものは大きいはずです。正解は1つではなく、目的と体の条件によって最適な秒数・強度が変わるというのが、公的資料を並べたときに見えてくる実態です。

結論:腹式呼吸の正しいやり方は「目的別に3つ」あります

腹式呼吸の正しいやり方は、目的によって3つに分かれます。緊張を鎮めたいなら吐く時間を吸う時間の1.5〜2倍にしたゆっくり呼吸、息切れのリハビリなら深く吸わない腹式呼吸、発声なら呼気を支える腹圧型で、秒数も強度も別物とされています。

まず全体の流れを押さえます

最短ルートは「目的を決める→安全条件を確認する→1つのプロトコルだけ実行する」の3手順です。

  1. 目的を1つに決める:メンタル(緊張・不安・寝つき)/呼吸器リハビリ(息切れ)/発声(歌・話し方)のどれか
  2. 安全条件をチェックする:呼吸器疾患の指摘、過換気・パニックの既往、腹部術後・妊娠後期に当てはまらないか
  3. 選んだ1つだけを4週間続ける:仰向け→座位→立位と姿勢を上げ、判定チェックで「できているか」を確認する

複数のやり方を混ぜるのが、いちばん失敗しやすいパターンです。「吐く3秒」と「吸う時間の倍で吐く」を同時に守ろうとすると、どちらも中途半端になります。

この記事で分かること

公的資料の食い違いを表で可視化し、あなたが従うべき1つを選べる状態にします。

  • 公的3機関+研究知見の指示を9項目で比較した表
  • 目的と安全条件から進む「あなたに合うプロトコル」分岐チャート
  • 「できているか」を測る判定チェック5項目と、4週間の進行表
  • 中止すべきサイン(しびれ・めまい・動悸)と、その理由
注意

この記事は一般的な健康情報の整理であり、診断や治療方針を示すものではありません。呼吸器疾患・循環器疾患の治療中の方、息切れが続く方、パニック症などで治療中の方は、自己判断で始める前に主治医へご相談ください。

そもそも腹式呼吸とは何か?胸式呼吸と何が違う?

そもそも腹式呼吸とは何か?胸式呼吸と何が違う?

腹式呼吸とは、横隔膜を主に使い、息を吸うとお腹がふくらみ、吐くとお腹がへこむ呼吸のことです。肩や胸郭を大きく動かす胸式呼吸に比べ、少ない労力で換気量を確保しやすいとされています。

横隔膜が下がるからお腹がふくらみます

お腹に空気が入るわけではなく、横隔膜が下がって内臓が押し下げられる結果です。

横隔膜は肺の下にあるドーム状の筋肉です。息を吸うときに横隔膜が収縮して下がると、胸の空間が広がって肺に空気が入ります。同時に内臓が下へ押されるため、お腹が前にふくらみます。吐くときは横隔膜がゆるんで上がり、お腹が戻ります。

よく使われる「丹田(おへその下)に空気を溜めるイメージ」という表現は、あくまでイメージ誘導です。解剖学的に空気が腹部へ入るわけではない点は、押さえておくと余計な力みを防げます。

効果は「呼吸の速度」で説明されつつあります

近年の研究では、吸い方より呼吸の速さを落とすことが効いている可能性が示されています。

スタンフォード大学の研究チームが2023年1月にCell Reports Medicineで発表した試験では、健康成人111名を4条件(吐く時間を長くするcyclic sighing/吸気強調呼吸/吸気と呼気が同じ長さの呼吸/マインドフルネス瞑想)に無作為に割り付け、1日5分×1カ月実施しました。その結果、吐く時間を長くする群がもっとも気分の改善が大きく、安静時の呼吸数も有意に低下したと報告されています。

また、生理心理学と精神生理学40巻1号(2022年)の解説によると、圧受容器反射の共鳴周波数はおよそ0.1Hz(呼吸数にして約4.5〜7回/分、平均6回/分)で、この速さで呼吸すると心拍変動が最大化するとされています。心拍変動バイオフィードバックの原理として知られる数値です。

血圧については、Clinical Cardiology誌に2026年に掲載されたCheng らのメタアナリシス(高血圧患者を対象としたランダム化比較試験13件・計1,097名)で、随意的なスロー呼吸により収縮期血圧−7.68mmHg、拡張期血圧−4.02mmHg、心拍数−1.15bpmの低下が報告されています。

補足

中国・西南大学のグループがScientific Reports(2025年3月11日)で報告した研究でも、呼吸速度を落とすだけで不安に関連する脳反応が低下する方向の知見が示されています。「お腹をふくらませること」自体より、「ゆっくりにすること」が本体である可能性を示す流れです。ただし研究はいずれも限られた集団・期間のもので、効果の大きさには個人差があるとされています。

「腹式呼吸ができない人」もいます

公的機関が明記している重要な例外です。ここが上位の解説でほぼ抜け落ちています。

独立行政法人環境再生保全機構(ERCA)の【知識編】効率の良い呼吸方法では、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などで「肺が大きくなり横隔膜が引き下げられ、腹式呼吸ができない方もいます」と明記されています。肺が過膨張していると横隔膜が最初から下がりきっており、さらに下げる余地が乏しいためです。

注意

ERCAの【実践編】腹式呼吸では、「無理にお腹を膨らませ過ぎると、かえって息切れが強くなることがあります」とも記載されています。ふくらまない・苦しくなる場合に、根性で続けるのは推奨されていません。

公的3機関で「正しいやり方」はどう違う?

結論から言うと、姿勢・開始動作・秒数・回数のすべてが機関ごとに違います。厚労省は吐く3秒/吸う3秒、日本医師会は吸気の倍の呼気、ERCAは「深く吸わない」で、吸呼比も1:1から1:2以上までばらついています。

比較表:同じ「腹式呼吸」でも指示は一致していません

項目①厚生労働省「こころもメンテしよう」②日本医師会「健康の森」③環境再生保全機構(ERCA)④スロー呼吸の研究知見
想定目的メンタル(ストレス対処)メンタル(リラックス)呼吸器リハビリ(COPD等)血圧・自律神経
姿勢座位または立位背筋を伸ばす仰向け・膝を曲げる→座位→立位指定なし
開始する動作吐くから吸うから吸うから
吸気の秒数3秒指定なし「深く吸わない」=普通の呼吸
呼気の秒数3秒吸気の約2倍口すぼめでゆっくり
吸呼比1:11:21:2以上
1回の時間・回数5〜10分1日5回→慣れたら10〜20回段階的(重り負荷10→30回)1日5分×1カ月で気分改善
明記された注意体調に合わせる「深呼吸ではありません」「膨らませ過ぎると息切れが強くなる」
推奨ペースの含意約20回/分約6回/分で心拍変動が最大

※①厚生労働省「こころもメンテしよう」こころと体のセルフケア/腹式呼吸をくりかえす、②日本医師会「健康の森」腹式呼吸のやり方、③ERCA【実践編】腹式呼吸・【知識編】効率の良い呼吸方法、④生理心理学と精神生理学40巻1号(2022年)およびCell Reports Medicine(2023年)に基づき整理。

なぜ違うのか=想定している目的と読者が違うからです

矛盾ではなく、宛先が違うと理解すると整理できます。

厚労省の資料はストレスを抱えた一般の方向けで、数を数えることで注意を呼吸に向ける「型」を提供しています。日本医師会はリラックス目的で呼気優位を強調します。ERCAは呼吸器疾患のある方向けなので、「深く吸うと肺が過膨張して余計に苦しくなる」という臨床上のリスクを避ける設計になっています。研究知見は、生理指標(心拍変動・血圧)を最大化する条件を探した結果です。

ここで注意したいのは、厚労省の3秒/3秒は呼吸数にすると約20回/分で、共鳴周波数とされる約6回/分とはかなり異なる点です。どちらが優れているという話ではなく、目指すものが違うということです。前者は「注意を向け直す道具」、後者は「自律神経の指標を動かす条件」です。

まとめ

出典が食い違って見えるのは、目的が違うからです。まず自分の目的を1つに決めてください。決めれば、従うべき秒数は自動的に1つに絞れます。次のH2の分岐チャートがその作業になります。

始める前の準備:必要なものと安全条件の確認

準備物はほぼ不要ですが、安全条件の確認だけは省略できません。用意するのはストップウォッチ(スマホで可)と、仰向けになれる場所、膝の下に入れるクッション1つで足ります。

用意するもの(合計0円で始められます)

道具にお金をかける必要はありません。

  • スマホのストップウォッチ:吸気・呼気の秒数と、1分間の呼吸数を実測するため
  • クッションまたは丸めたバスタオル:仰向けで膝を軽く曲げ、腹筋の力を抜くため
  • ベルト・締めつける衣類を外す:腹部の動きを妨げないため
  • (4週目以降のみ)500gの重り:袋入りの塩や本など。ERCAの横隔膜トレーニング用

安全条件チェック:1つでも当てはまれば進み方が変わります

以下は「やってはいけない」ではなく、やり方を変える/相談するためのチェックです。

  1. 医師からCOPD・肺気腫・肺の過膨張を指摘されている、または仰向けでお腹をふくらませようとすると息切れが強くなる
  2. 過換気発作・パニック症の既往がある、または呼吸に注意を向けると不安が強まる自覚がある
  3. 腹部の手術後、または妊娠後期
  4. 胸痛・安静時の強い息切れ・失神歴がある

1に当てはまる方は、ERCAが明記するとおり腹式呼吸ができない場合があります。腹式呼吸に固執せず、口すぼめ呼吸を主体にしたうえで主治医に相談してください。2に当てはまる方は、長時間・深呼吸型は避け、1セット1分程度から様子を見る進め方が安全側です。3に当てはまる方は、重りを乗せる負荷トレーニングは行わず、必ず主治医に確認してください。4に当てはまる方は、セルフケアより先に受診をご検討ください。

注意

呼吸法は医療行為の代替ではありません。日本呼吸器学会・日本呼吸ケア・リハビリテーション学会の「呼吸リハビリテーションに関するステートメント」(2018年、同年11月26日修正版)では、呼吸リハビリテーションは評価に基づき、コンディショニングを併用した運動療法を中心に実施するものと定義されています。腹式呼吸は単独で完結するものではなく、プログラムの一部という位置づけです。

実施のタイミングを決めておきます

続かない原因の多くは「いつやるか」を決めていないことです。

就寝前、昼休みの終わり、通勤電車の中など、既存の習慣に紐づけると定着しやすくなります。日本医師会は1日5回くらいから始めて慣れたら10〜20回、厚労省は1回5〜10分としており、まずは短いほうから始めて構いません。

手順を順番に詳しく解説:仰向けから始める基本の腹式呼吸

最初の1回は、仰向け・膝を曲げ・片手を胸/片手をお腹から始めます。この姿勢がもっとも腹筋の力が抜け、胸が動いていないことを手で確認できるためです。

ステップ1:姿勢を作る(所要1分)

腹筋の緊張を抜く姿勢を最初に作ります。

  1. 仰向けに寝て、膝を軽く曲げます(膝下にクッションを入れると楽です)
  2. ベルトやきつい衣類をゆるめます
  3. 片手を胸の中央に、もう片方の手をおへその上に置きます
  4. 肩の力を抜き、あごを軽く引きます

この時点では、まだ呼吸を変えなくて構いません。普段どおりの呼吸で、どちらの手が動いているかを10秒ほど観察します。胸の手が大きく動いていれば、現状は胸式呼吸が優位ということです。

ステップ2:吐くところから始める(厚労省型)

厚生労働省の手順は、吐くから始める点が他媒体と異なります。

厚生労働省「こころもメンテしよう」では、「3秒数えながら口からゆっくり吐き、同じく3秒数えながら鼻から吸う」を「5〜10分くらい繰り返す」と示されています。吐くから始めるのは、先に肺の空気を出したほうが、次の吸気が自然に入ってくるためです。

  1. 口から3秒かけて、細く長く吐きます(おへその手が沈むのを確認)
  2. 鼻から3秒かけて吸います(おへその手が持ち上がるのを確認)
  3. 胸の手はできるだけ動かさないようにします
  4. これを5〜10分続けます

ステップ3:呼気を伸ばす(日本医師会型/研究知見型)

リラックスを狙うなら、吐く時間を吸う時間の約2倍にします。

日本医師会「健康の森」では、背筋を伸ばして丹田に空気を溜めるイメージで吸い、「吸うときの倍くらいの時間をかけるつもりで吐く」とされています。回数は1日5回くらいから始め、慣れたら10〜20回が基本です。

心拍変動を狙う場合は、より遅いペースになります。約6回/分は1呼吸あたり10秒なので、吸う4秒・吐く6秒が目安の一例です。上位記事で見かける「ふーっとゆっくり6秒吐く」(福岡天神内視鏡クリニック)という指示も、この呼気側の目安に近い数値です。

吸気呼気1分あたり向いている目的
厚労省型3秒3秒約20回気持ちを切り替えたい・型が欲しい
日本医師会型3〜4秒6〜8秒約6〜7回リラックス・就寝前
共鳴呼吸型4秒6秒約6回自律神経指標・血圧が気になる
ERCA型深く吸わない口すぼめでゆっくり個別息切れ・呼吸器リハビリ

ステップ4:姿勢を上げていく(仰向け→座位→立位)

仰向けで安定してから、初めて座位・立位へ進みます。

仰向けは重力の影響が小さく、腹部の動きが分かりやすい姿勢です。座位・立位では腹筋が姿勢維持に使われるため難易度が上がります。ERCAも仰向け・膝を曲げた姿勢から段階的に進める流れを示しています。焦って座位から始めると、肩や首に力が入りやすくなります。

ポイント

どの型を選んでも、共通する成功の目印は1つです。胸に置いた手がほとんど動かず、お腹の手だけが持ち上がること。秒数より先に、この動きの分離を優先してください。

つまずきやすいポイントと対処法

つまずきの大半は、「お腹をふくらませよう」と力み過ぎていることが原因です。腹式呼吸は力を入れる動作ではなく、力を抜いて横隔膜に任せる動作とされています。

お腹がふくらまないときは、吐き切ることから見直します

吸うことより、先に吐き切るほうが解決の近道です。

吸気で腹部が動かない方の多くは、前の呼気で肺に空気が残っています。残気が多いと、次に吸える量が減り、横隔膜も下がりにくくなります。対処としては、口をすぼめて「ふーっ」と長めに吐き、吐き終わりで一瞬止めてから、口を閉じて鼻から自然に入ってくるのを待ちます。「吸う」ではなく「入ってくるのを待つ」感覚です。

それでも動かない場合は、うつ伏せや横向きで試す、あるいは片手を軽く腹部に置いて触覚の手がかりを増やす方法があります。

肩がすくむ・首が疲れるときは強度が高すぎます

肩や首の筋肉が動員されているサインなので、量を減らします

呼吸補助筋(首や肩の筋肉)が働いているのは、必要以上に大きく吸おうとしている証拠です。吸気量を半分に落とし、秒数も短くしてください。ERCAが「深呼吸ではありません。深く吸わず、普通の呼吸で横隔膜を使用しておこないます」と明記しているとおり、大きく吸うことは目的ではありません

途中で苦しくなる・息が詰まるときは中断します

我慢して続ける場面ではありません。中断が正解です。

秒数を守ろうとして苦しくなるのは、その秒数が今の自分に合っていないだけです。3秒がきついなら2秒に、6秒の呼気がきついなら4秒に下げてください。秒数はあくまで目安であり、守るべき規則ではありません。

眠くなる・集中できないのは問題ないことが多いです

就寝前なら好都合ですが、日中は姿勢を変えて対応します。

仰向けでリラックスすると眠気が出るのは自然な反応です。日中に実施して業務に支障が出る場合は、座位で目を開けたまま行う、実施時間を5分以内に区切る、といった調整が現実的です。

補足

「雑念が湧く」ことを失敗と捉える必要はありません。呼吸に注意が戻せていれば十分です。ただし、呼吸に注意を向けること自体が不安を強める方もいます(次章で詳述します)。その場合は無理に続けず、散歩など体を動かす方法に切り替えるほうが合うことがあります。

あなたに合う腹式呼吸プロトコルはどれ?(分岐チャート)

目的と安全条件の2段階で、5つの出口のいずれか1つに絞れます。まず目的を選び、次に安全条件の割り込みチェックを通すと、従うべき秒数・回数が確定します。

Q1:あなたの目的はどれですか

  • A:緊張・不安を鎮めたい/寝つきをよくしたい
  • B:息切れがある/呼吸器疾患のリハビリとして
  • C:発声・歌のため

Q2:安全条件(全ルート共通の割り込み)

以下は目的より優先されます。

  1. COPD・肺気腫・肺の過膨張を指摘されている、または仰向けでお腹をふくらませようとすると息切れが強くなる → 腹式呼吸に固執せず、口すぼめ呼吸を主体にして主治医に相談(ERCA「腹式呼吸ができない方もいます」「膨らませ過ぎるとかえって息切れ」に基づく)
  2. 過換気発作・パニック症の既往がある → 秒数を数える長時間法は避け、1セット1分・1日数回から。手足のしびれ/めまい/動悸が出たら即中止して普通の呼吸に戻す
  3. 腹部術後・妊娠後期 → 腹圧をかける方法(重り負荷)は不可。主治医に確認する

出口カード:この5つのどれか1つを選びます

出口①|A(メンタル)×安全条件なし・型が欲しい人

  • 姿勢:座位または立位/吸気3秒・呼気3秒/1回5〜10分/1日1〜2回
  • 出典:厚生労働省「こころもメンテしよう」

出口②|A(メンタル)×自律神経・血圧が気になる人

  • 姿勢:仰向けまたは座位/吸気4秒・呼気6秒(約6回/分)/1回5分/1日1〜2回
  • 出典:生理心理学と精神生理学40巻1号(2022年)の共鳴周波数、Cell Reports Medicine(2023年)の1日5分×1カ月

出口③|A(メンタル)×過換気・パニックの既往あり

  • 姿勢:座位/秒数は数えず「吐くほうを少し長く」だけ意識/1セット1分/1日数回
  • 中止基準:しびれ・めまい・動悸が出たら即中止。不安が増すなら呼吸法自体を中止し、医療機関に相談

出口④|B(呼吸器リハビリ)

  • 姿勢:仰向け・膝を曲げる→慣れたら座位→立位/深く吸わない(普通の呼吸で横隔膜を使う)/呼気は口すぼめでゆっくり
  • 補強:横隔膜トレーニング(後述の4週間進行表)/主治医・理学療法士の指導下が前提
  • 出典:ERCA【実践編】腹式呼吸、【実践編】横隔膜を鍛えよう

出口⑤|C(発声・歌)

  • 姿勢:立位/吸気は素早く/呼気は一定圧を保って長く(腹圧で支える)
  • 注意:これは医療目的の腹式呼吸とは別物です。呼気の「支え」を作る訓練であり、リラックス目的の脱力型とは要求される腹圧が逆方向になります。混同すると、どちらの目的も達成しにくくなります
まとめ

選ぶべきは1つだけです。出口①〜⑤を掛け持ちせず、4週間は同じプロトコルを続けてください。効果を判定できるのは、条件を固定したときだけです。

効率化・応用のコツ:できているかを測り、4週間で進めます

上達を実感できないいちばんの理由は、「できているか」の判定基準を持っていないことです。判定チェック5項目と4週間の進行表で、主観ではなく実測で進捗を確認します。

判定チェック5項目(各◯×で記録します)

週1回、同じ条件で確認します。

  1. 仰向けで、胸に置いた手がほぼ動かず、お腹の手だけが持ち上がる
  2. 吐く時間が吸う時間の約2倍になっている(スマホのストップウォッチで実測)
  3. 肩がすくんでいない
  4. 実施後に1分間の呼吸数を数え、実施前より減っている(成人の安静時目安は12〜20回/分。実施中は6〜12回/分まで落ちれば十分)
  5. しびれ・めまい・動悸が出ていない(1つでも出たら中止=安全弁

5番だけは性質が異なります。ほかの4つは上達の指標ですが、5番は中止の判断基準です。

4週間進行表

姿勢→負荷の順で難易度を上げます。負荷(重り)はERCAの横隔膜トレーニングに基づく方法です。

姿勢負荷1回の時間1日の回数次に進んでよい条件
週1仰向け(膝を曲げる)なし5分1〜2回判定(1)(2)(4)が◯
週2座位なし5分2回判定(1)(2)(4)が◯
週3立位なし5分2回判定(1)(2)(4)が◯
週4仰向け重り500g10回判定(1)(2)(4)が3週連続◯
週5以降仰向け週500gずつ増量20回→30回1カ月で2kg、2カ月で3kgを上限目安

重りの負荷と回数は、ERCA【実践編】横隔膜を鍛えように基づきます。同資料では、腹部に袋入りの塩や本などの重りを乗せ、「500gから開始、週に500gずつ増加して1カ月で2kg、2カ月で3kg」「最初は1日10回、次は20回、30回はできるように」と示されています。

重要なのは進級条件です。判定チェックの(1)(2)(4)が3週連続で◯になってから次の段階へ進んでください。1回できただけでは、再現性があるとは言えません。

応用:日常のどこに差し込むか

単独で時間を取るより、既存の場面に組み込むほうが継続しやすくなります。

  • 就寝前:仰向け+吸4秒/吐6秒を5分(出口②)
  • 会議や面接の直前:座位で吐く3秒/吸う3秒を1〜2分(出口①の短縮版)
  • 入浴後:体が温まり筋緊張が落ちているため、動きの分離を練習しやすい
ポイント

記録は1行で十分です。「日付/型/分数/判定(1)(2)(4)の◯×/呼吸数」。測っていない練習は、上達したかどうかを判断できません。スマホのメモ1行で構いません。

注意点・リスク:やりすぎは逆効果になり得ます

腹式呼吸は安全な方法とされていますが、深く吸いすぎる・長くやりすぎることによる不調はあり得ます。手足のしびれ、めまい、動悸が出た時点で中止するのが原則です。

過換気(吸いすぎ)に注意します

「深呼吸を頑張る」ほど、かえって不調が出ることがあります。

必要以上に換気量が増えると、血中の二酸化炭素が過度に減り、手足や口周りのしびれ、めまい、ふらつき、動悸などが起こり得るとされています。「体に良いはず」と思って強く速く吸い続けると、この状態に近づきます。ERCAが「深呼吸ではありません。深く吸わず、普通の呼吸で」と明確に否定しているのは、この点とも整合します。

注意

実施中または直後に、手足・口周りのしびれ/めまい・ふらつき/動悸・胸の圧迫感/強い不安のいずれかが出た場合は、すぐに中止して普通の呼吸に戻してください。症状が続く、繰り返す、あるいは胸痛や失神を伴う場合は医療機関を受診してください。

呼吸器疾患がある場合は「できないこと」がある前提で進めます

公的機関が明記している、もっとも見落とされやすい注意点です。

再掲になりますが、ERCAは「肺が大きくなり横隔膜が引き下げられ、腹式呼吸ができない方もいます」「無理にお腹を膨らませ過ぎると、かえって息切れが強くなることがあります」と記載しています。できないことは失敗ではなく、体の状態による当然の帰結です。この場合は口すぼめ呼吸を主体にし、主治医や理学療法士に相談してください。

パニック症・不安症の方は注意の向け先を考えます

呼吸に注意を集中させること自体が、不安を強める場合があります。

身体感覚に注意を向けると、動悸や息苦しさに気づきやすくなり、それが不安を増幅させることがあると指摘されています。呼吸法を始めてから不安が強まった、発作の頻度が増えたという場合は、続けるべきではありません。治療中の方は、開始前に主治医へ相談することをおすすめします。

腹式呼吸だけで完結させないことも大切です

呼吸法は、あくまでプログラムの一部という位置づけです。

日本呼吸器学会・日本呼吸ケア・リハビリテーション学会の「呼吸リハビリテーションに関するステートメント」(2018年)では、呼吸リハビリテーションは評価に基づき、コンディショニング(呼吸練習・呼吸筋ストレッチ等)を併用した運動療法を中心に実施するものと定義されています。呼吸練習単独ではなく、運動療法と組み合わせるのが標準的な考え方とされています。

メンタル面でも同様です。睡眠・運動・相談先の確保といった土台があってこそ、呼吸法が補助として機能します。

まとめ

守るべき原則は3つです。深く吸いすぎない/不調が出たら即中止/疾患がある場合は主治医の指導を優先する。この3つを外さなければ、大きな失敗は避けやすくなります。

具体例・ケーススタディ:3人の進め方

同じ「腹式呼吸を始めたい」でも、選ぶプロトコルと4週間の中身は大きく変わります。以下は本記事の分岐チャートに沿った、典型的な3ケースの組み立て例です。

ケース1:会議前の緊張を抑えたい30代会社員

出口①(厚労省型)から入り、慣れたら出口②へ移行する流れが現実的です。

  • 週1〜2:就寝前に仰向けで、吐く3秒/吸う3秒を5分。判定(1)の「胸の手が動かない」を最優先で確認
  • 週3:会議直前に座位で1〜2分の短縮版を追加。立位でも動きの分離ができるか確認
  • 週4以降:就寝前は吸4秒/吐6秒(約6回/分)へ移行。1分間の呼吸数を実施前後で記録

このケースでは重り負荷は不要です。目的が横隔膜の筋力向上ではなく、注意の切り替えと落ち着きにあるためです。

ケース2:階段で息切れするようになった60代(呼吸器疾患の診断あり)

出口④に該当し、自己流で進めないことが最重要です。

  • 前提:主治医に「腹式呼吸を練習してよいか」「口すぼめ呼吸との使い分け」を確認する
  • 姿勢:仰向け・膝を曲げた姿勢から。深く吸わず、普通の呼吸で横隔膜を使う
  • 呼気:口すぼめでゆっくり吐く
  • 中止基準:お腹をふくらませようとして息切れが強くなるなら中断し、口すぼめ呼吸主体に切り替えて主治医へ報告
  • 負荷:重りを使う横隔膜トレーニングは、指導者の確認を得てから。500g→週500gずつが目安

このケースで「1日20回できるようになった」ことより重要なのは、息切れが悪化していないことです。

ケース3:発表で声が震える20代(発声目的)

出口⑤で、医療目的とは別物として扱います

  • 姿勢:立位。吸気は素早く、呼気は一定の圧を保って長く出す
  • 練習例:「スーッ」と一定の強さで15〜20秒吐き続け、途中で強さが落ちないかを確認
  • 注意:リラックス目的の脱力型と同時進行にしない。腹圧の使い方が逆方向になり、どちらも身につきにくくなります

発声目的の場合、緊張対策としては出口①を別の時間帯(本番前など)に切り分けて使うと、混乱を避けられます。

補足

3ケースに共通するのは、4週間は同じ条件で続け、記録を取るという点だけです。プロトコルの中身は目的ごとに別物で構いません。「万人に共通の正しいやり方」を探し続けるより、自分の条件に合う1つを固定するほうが、結果的に早く身につきます。

まとめ:1つを選び、4週間だけ固定してください

腹式呼吸の正しいやり方は1つではありません。公的3機関ですら秒数・回数・強度の考え方が異なり、その違いは想定している目的の違いから生まれています。

  • 目的を1つ決める:メンタル/呼吸器リハビリ/発声
  • 安全条件を確認する:呼吸器疾患、過換気・パニックの既往、腹部術後・妊娠後期
  • 出口①〜⑤から1つだけ選ぶ:掛け持ちしない
  • 判定チェック5項目で測る:特に(1)胸の手が動かない、(2)呼気が吸気の約2倍、(4)呼吸数が減る
  • 不調が出たら中止する:しびれ・めまい・動悸は安全弁

次の一歩は簡単です。今夜、仰向けで膝を曲げ、胸とお腹に手を置いて、吐く3秒・吸う3秒を5分だけ試してみてください。そのうえで、胸の手が動いていたかどうかをメモに1行残す。それが4週間の起点になります。

注意

本記事は一般的な健康情報の整理であり、診断・治療の代替ではありません。呼吸器疾患や循環器疾患で治療中の方、息切れ・胸痛・失神歴のある方、精神科・心療内科で治療中の方は、実施前に必ず主治医へご相談ください。実施中に体調の変化があれば中止し、症状が続く場合は医療機関を受診してください。

よくある質問

正しい腹式呼吸のやり方を一言で言うとどうなりますか?

胸を動かさず、お腹だけがふくらむ呼吸を、吐く時間を長めにしてゆっくり繰り返すことです。目安として、厚生労働省は吐く3秒・吸う3秒を5〜10分、日本医師会は吸う時間の約2倍かけて吐くことを1日5回から(慣れたら10〜20回)としています。どちらか一方を選び、混ぜないことが上達の近道です。

腹式呼吸の正しいやり方は、1日何回・何分やればよいですか?

目的によりますが、1日5分×1カ月が1つの実証された目安です。Cell Reports Medicine(2023年)でスタンフォード大学の研究チームが報告した試験では、健康成人111名に1日5分×1カ月を実施し、吐く時間を長くする群で気分の改善と安静時呼吸数の低下が確認されています。回数で管理したい場合は、日本医師会の「1日5回から始めて慣れたら10〜20回」が分かりやすい基準です。

お腹がふくらまないのですが、やり方が間違っていますか?

必ずしも間違いとは限りません。まず吐き切ることを優先し、口をすぼめて長く吐いてから、鼻で息が入ってくるのを待ってみてください。それでも動かない場合、体の状態が原因のこともあります。環境再生保全機構(ERCA)は、肺が大きくなり横隔膜が引き下げられることで「腹式呼吸ができない方もいます」と明記しています。息切れが強くなる場合は無理をせず、主治医にご相談ください。

腹式呼吸で血圧は下がりますか?

低下を示す研究はありますが、治療の代替にはなりません。Clinical Cardiology誌に2026年に掲載されたChengらのメタアナリシス(高血圧患者対象のRCT13件・計1,097名)では、随意的なスロー呼吸により収縮期血圧−7.68mmHg、拡張期血圧−4.02mmHgの低下が報告されています。ただし対象や条件は限定的で、個人差もあります。降圧薬の調整を含め、治療方針は必ず主治医と相談してください。

やりすぎると体に悪いことはありますか?

あり得ます。深く吸いすぎると換気量が過剰になり、手足や口周りのしびれ、めまい、動悸などが起こることがあるとされています。環境再生保全機構(ERCA)も「深呼吸ではありません。深く吸わず、普通の呼吸で」「無理にお腹を膨らませ過ぎると、かえって息切れが強くなることがあります」と注意を促しています。症状が出たら中止し、普通の呼吸に戻してください。

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参考にした主な情報源

  • 厚生労働省「こころもメンテしよう」こころと体のセルフケア/腹式呼吸をくりかえす
  • 日本医師会「健康の森」腹式呼吸のやり方
  • 独立行政法人環境再生保全機構(ERCA)【知識編】効率の良い呼吸方法/【実践編】腹式呼吸/【実践編】横隔膜を鍛えよう
  • 日本呼吸器学会・日本呼吸ケア・リハビリテーション学会「呼吸リハビリテーションに関するステートメント」(2018年11月26日修正版)
  • Cell Reports Medicine(2023年1月17日)/Stanford Medicine 解説記事
  • Clinical Cardiology, Cheng et al.(2026年, doi:10.1002/clc.70279)
  • 生理心理学と精神生理学 40巻1号(2022年)

最終確認日:2026年8月3日

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